生成AIで外観検査ソフトはどこまで作れるのか ーカギはソフトではなく「システム」として考えられるかー
生成AIで外観検査ソフトはどこまで作れるのか
カギはソフトではなく「システム」として考えられるか
この記事でわかること
生成AIの進化によって、プログラミングの専門家でなくてもソフトウェアを作れる時代になりつつあります。外観検査ソフトも例外ではありません。この記事では、生成AIを使って外観検査ソフトをどこまで作れるのか、その可能性を率直に整理したうえで、自作を考える前に押さえておきたい「外観検査はシステムである」という視点と、既存の外観検査ソフトに詰まっているノウハウや技術について解説します。
「生成AIを使えばソフトなんて買わなくていい」と言われたら
「生成AIを使えば、外観検査ソフトなんて買わなくても作れるだろう」。経営者からこうした指示を受け、どう判断すればよいか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。あるいは、メーカーで生産技術を担当していて、「生成AIがあれば自分でもできるのでは」と感じている方もいるかもしれません。
結論から言えば、その発想自体は決して間違いではありません。ただし、「誰が」「何を」作るのかによって、その現実性は大きく変わります。
生成AIで作れる範囲は案外広い
ルールベースの判定は十分に現実的
色抽出で特定の色の領域を抜き出し、その面積が閾値を超えたらNGとする。あるいは、パターンマッチングで位置を合わせたうえで、RGB値が一定の閾値を超える画素の総面積で合否を判定する。こうしたルールベースの検査ロジックであれば、生成AIに指示を出しながら組み上げることはそれほど難しくありません。画像処理ライブラリに関する情報はインターネット上に豊富にあり、生成AIが得意とする領域だからです。
物体検出やセグメンテーションもローカルで構築できる時代に
不良箇所を学習させて検出する物体検出や、不良の領域を抽出するセグメンテーションといったAIモデルも、GPUを搭載したPCなどのハードウェアが準備できれば、簡単なものであればローカル環境で構築できる可能性があります。数年前であれば専門のエンジニアが必要だった作業も、生成AIの支援によってハードルが大きく下がっています。
既存ソフトの一部を自作したい人なら、案外良いところまでいける
特に、これまで外観検査ソフトを使ってきた経験があり、「この機能だけは自分で作りたい」という方であれば、生成AIを活用して案外良いところまで到達できるかもしれません。検査の全体像がすでに見えているからです。それほどまでに、生成AIは可能性を秘めたツールだと言えます。
外観検査は「ソフト」ではなく「システム」である
一方で、初めて目視検査の自動化に取り組む方が、いきなり生成AIで外観検査ソフトを作ろうとすると、ハードルは一気に上がります。その理由は、外観検査がソフトウェア単体ではなく、撮像機器や搬送装置、外部機器を含めた「システム」として成り立っているからです。
コンベア上の目視検査を置き換えるとしたら
例えば、コンベア上を流れる製品を、今は人が目で見て検査しているとします。これを外観検査ソフトに置き換えるには、少なくとも次のようなことを決める必要があります。
- 撮像のタイミング: 製品が所定の位置に来たことをどう検知し、カメラに撮像指示を送るのか
- 検査範囲: 製品の全面を検査するために、カメラを何台、どの角度に配置するのか
- 判定方法: どのような画像処理やAIを使い、何を基準にOK/NGを判定するのか
- 排出方法: NG品をどのようにラインから取り除き、その信号をどう設備に伝えるのか
そのうえで、各工程を実現するためにソフトウェアとして必要な機能は何かを洗い出し、一つずつ実装していく必要があります。
ソフトでやること、ハードでやることの切り分け
外観検査では、照明やカメラ、レンズの選定といった撮像環境の段階で、検査結果の大半が決まると言っても過言ではありません。不良が画像にきちんと写っていなければ、どれだけ優れたロジックを組んでも検出はできないからです。何をハード側で解決し、何をソフト側で処理するのか。この勘所がわからないまま生成AIにコードを書かせても、期待した結果にはなかなかたどり着けません。
生成AIが苦手な領域もある
さらに、産業用カメラのSDK(ソフトウェア開発キット)やPLCとの通信仕様はメーカーごとに異なり、ドキュメントが会員向けにしか公開されていないことも少なくありません。公開情報が少ない領域では生成AIの回答精度も落ちやすく、判定ロジックは組めても機器との接続部分でつまずく、というケースは珍しくないのです。
既存の外観検査ソフトに詰まっているもの
生成AIで作れる範囲が広がっても、自作ではなかなか到達できない領域があります。既存の外観検査ソフトには、数多くの現場での運用を通じて培われてきたものが詰まっているからです。
知らないツールは、生成AIに指示できない
既存の外観検査ソフトには、画像の前処理や位置補正、検査領域の設定など、検査のためのさまざまなツールが用意されています。これらは、現場で起きた問題を一つずつ解決する中で生まれてきた、いわば運用ノウハウの結晶です。
こうしたツールの存在や使いどころを知っている人であれば、「この前処理をかけてから、この方法で判定して」と生成AIに具体的に指示を出せます。しかし、存在を知らないものは指示のしようがありません。生成AIは的確な問いには的確に答えてくれますが、何を問うべきかは使い手に委ねられているのです。
検査精度だけでなく、処理速度にもアイデアが詰まっている
量産ラインでは、検査精度と同じくらい処理速度が重要です。どれだけ正確に判定できても、ラインのタクトタイムに間に合わなければ使うことはできません。既存のソフトには、検査範囲の絞り込みや処理の並列化、GPUの効率的な活用、AIモデルの軽量化など、高速化のための工夫が数多く組み込まれています。これらは、現場で速度の壁にぶつかる中で磨かれてきたものです。生成AIが書くコードはまず「動くこと」が優先されるため、そのままではラインの速度に追いつかないことも少なくありません。
公開されていない各社の独自技術は、自作では到達しえない
さらに、各社の外観検査ソフトには、論文やオープンソースとして公開されていない独自の技術が存在します。例えば当社では、独自に開発した「ゼロ学習AI」を保有しています。
生成AIが学習しているのは、基本的に一般に公開されている情報です。公開されていない技術を生成AIが再現することはできず、この領域は自作では到底到達しえないと言えるでしょう。
おわりに
生成AIは、外観検査ソフトの開発においても大きな可能性を持っています。ただし、それが力を発揮するのは、撮像から判定、排出までの流れを、具体的なロジックも含めて描けている場合です。何をどうやったらよいかが見えている人であれば、生成AIによってそれを具現化できる可能性は十分にあります。
一方で、「作れる」ことと「現場で使い続けられる」ことは別の問題です。内製を検討する際に見落としがちなコストやリスクについては、以下の記事で詳しく解説しています。


